先週,2年毎に行われているドイツ橋梁賞(Deutschen Brückenbaupreis)の発表がドレスデンでありまして,鉄道橋・道路橋部門において,ヨルク・シュライヒが主設計のゲンゼバッハ(Gänsebachtal)高架橋が選ばれました.浅い渓谷に1000メートル超の高架橋を架けるという難しい課題を,鮮やかに解いた点が評価されたとのことです.
http://www.brueckenbaupreis.de より |
当日授賞式に参列した同僚によると,シュライヒはこの受賞を大変喜んでいたようです.それもそのはず.詳しくは後述しますが,シュライヒはおよそ20年前に,この新しいタイプの鉄道橋を提案しました.そこから実現までの道のりは大変長く険しいものでしたが,最終的に,こういった最高の形で皆に認められたということで,喜びもひとしおであったようです.この橋は,何度かエントリに書いた,拙訳「鉄道橋のデザインガイド」で示された提案例の一つが実現したものです.
授賞式の様子の写真>
http://www.brueckenbaupreis.de/html/2687.htm
ドイツでは1989年の東西再統一以降、開発の遅れていた旧東ドイツ地域の高速新線(NBS:Neubaustrecken)の整備が進められています.現在は特に,ベルリンから南に下った、Ebensfeld‐Leipzig/Halle間の整備が重点的に行われていて、この路線上に新しい鉄道橋が続々と生まれています.ゲンゼバッハ高架橋はそのうちの一つで,ワイマールから少し北の谷に架かる,RC橋脚とPCスラブから成るインテグラル構造の橋梁です.
インテグラル橋とは何か
インテグラル構造とは,桁と柱や橋台が一体化した(剛結合された)もので,例えば従来の箱桁橋と比較すると堅牢で耐久性があり,建設費やメンテナンスコストも低く抑えられます.さらに橋台やジョイント部の不連続部で起こる鉛直方向の角折れがないため、快適な列車の乗り心地が実現できます.
今まで,ドイツの鉄道橋の設計では,迅速でかつ容易に上部工の架け替えが行えることを重視していました.しかし,実際のところ,80%以上のケースで、上部工の架け替えの際には,同時に下部工も架け替えています.また、PC箱桁で必要となる,支承やレールの伸縮継目は消耗品としては高価です.
ゲンゼバッハ高架橋は,112mのラーメンを一つのブロックとして、8つのブロックが連なっています.橋全体に渡りレールの伸縮継目はありません.制動荷重や始動荷重は、各ブロックの中央にある橋脚(2本の橋脚がコンクリート板で連結されたもの,写真の左)で受け持たれます.
支間長を大きく取ることにより、桁が厚く、橋脚が太くなってしまうのであれば、支間長を短くして橋の透明性を高めるべきである、というのが,シュライヒが20年前から主張していたデザインアプローチであり,ゲンゼバッハ高架橋でその効果が証明されました.当初予定されていた標準設計と比べると、大分透過性は高く,デザインの面での優位点が際立ちます.
それにしてもシュライヒはどのようにして,このような新しい橋梁を実現させたか.そこには長きに渡る戦いがあったようです.
(次回に続く)