ベルリン郊外にあるシェーノウ教会(Kirche Schönow)は,1959年に建てられたプロテスタントの教会です.フライ・オットーの作品としては,いささかマニアックですが,ご紹介.
切妻の大屋根に,正面は一面ガラス・ファサードという実にシンプルで力強い構成.鋼製の引張材で補剛されたこの大屋根はプレキャストコンクリート製の三脚で支えられ,壁には直接荷重がかかりません.
これによって,屋根の足元の周辺を全て透明なガラスで囲うことができました.大屋根は宙に浮かびあがり,内と外は接続されます.外に開かれた透明な壁は,コミュニティの開かれた姿勢を表現しています.
「私にはあまり実作はない."空に浮かぶ城"ばかりを考えてきたから.(„Ich habe wenig
gebaut. Ich habe viele ‚Luftschlösser‘ ersonnen.“)」[1]と自分で言っていたように,実はオットーが設計した建築の数は多くありません.特に恒久的な建築に限ると,一人で設計者としてクレジットされてるものはほとんどありません.
この教会も,一人の設計ではなく,若きベルリンの建築家エヴァルト・ブブナー(Ewald
Bubner)との協働でした.実はこの教会の招待コンペで一位を取ったのがブブナー.二位がオットーでした.
ブブナーの経験不足を心配した施主は,オットーに相談役を頼みます.重厚なデザインであった当初の案は,オットーとの会話を重ねるごとにシンプルな方向に向かい,最終的には,軽量構造と呼べるこのデザインに行き着きます.
学生時代からすでに,オットーを知っていた氏にとっては協働はとても光栄だったそうで,実際この二人の共同作業はその後も長く続きます.ブブナーは1976年に大学教授になるまで,オットーのパートナーを務め,マンハイムのホールや,ミュンヘンオリッピック競技場の設計にも携わります.
赤みを帯びた砂岩による丸みを帯びたデザインの祭壇と説教壇と洗礼盤はオットーの設計.
建物から2年遅れた完成した背の高い鐘楼は,まるで珪藻の骨組みのような軽量の立体格子構造です.2m辺のキューブを重ねていって高さは24m.3つの鐘の動的荷重や風荷重に対して構造設計されていて,鋼版の厚さは頂上で10mm,足元で50mm.
フライ・オットーといえば,というくらいに模型でのスタディが多い印象がありますが,このタワーも空気膜と石膏を使ってスタディしています.キューブ内で膨らませた風船というジオメトリー.その後発展させていく,空間構造システムの基礎となりました.
展覧会 Frei Otto Thinking by Modeling 2016/2017 at ZKM in Karlsruhe に展示されていた実際のスタディモデル |
同上の展覧会より タワーの施工の様子 |
この教会は、両氏の初期作品の1つとして1995年に遺産登録(Denkmalschutz)されています.
最後に余談になりますが,この建物残念ながら本当に使いづらいらしく・・.建物を案内して頂いた教会の方からは愚痴ばかり聞かされてしまいました(笑).ガラス面が大きすぎて,夏は暑くて,冬は寒い.暖房で温めてもすぐ熱は外に出ていく.屋根が急傾斜で照明が遠い.暗いのはさすがに問題があって,わざわざ可動式の照明を取り付けなくてはいけなかったそう.モダニズムのデザイン的な意図に対してまだ技術が追いついていなかった時代を表すエピソードです.
[基本データ]
名称:
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シェーノウ教会(Kirche
Schönow), Ev. Kirchengemeinde Zehlendorf Schönow-Buschgraben
Gemeindebüro
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完成年:
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1961-1963
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設計:
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Ewald Bubner, Frei Otto
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位置:
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Andreezeile 21, 14165 Berlin
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アクセス:
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自動車またはバス
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[参考]
[1]
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Architektur Natur, Ausschnitt, Warmbronner Schriften 7,
Christian-Wagner-Gesellschaft, Warmbronn 1996. (freiotto-architekturmuseum.de, PDF)
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[2]
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Frei Otto Complete Works: Lightweight Construction Natural
W. Nerdinger (Ed.), Birkhäuser (2005) P.82-83, P.206-207
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[3]
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自然な構造体―自然と技術における形と構造、そしてその発生プロセス (SD選書) 単行本 – 1986,フライ オットー
(著), 岩村 和夫 (翻訳),
P.70-73
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[4]
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Frei Otto Thinking by
Modeling, G. Vrachliotis, et al.(Ed.), Spector Books (2017) p.95
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[5]
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https://de.wikipedia.org/wiki/Frei_Otto
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author visited: 2017-01