なぜ大雪で「くまがやドーム」の屋根が壊れたのか考えてみた

関東地方を襲った大雪によって,インフラ,建築構造物にも多大な被害が出ていますね.心配しながらネットで各地の様子を見ていたのですが,その中で,熊谷市の「彩の国くまがやドーム」の屋根の壊れ方が少々気になったので考察してみました.

https://twitter.com/hiroki971/status/434571057140203520/photo/1/large より
一見すると派手な壊れ方に見えるので,ネットでも多少話題になっているようです.
Naver 【衝撃】埼玉県 熊谷ドーム が雪の重みで崩落 絶望の状況発生

以下のテキストは,少しだけ膜構造の理論や実設計の知識がある構造エンジニアが,一般の方が撮った写真や動画だけを見て,崩壊のメカニズムを推測したものですので,くれぐれもその点をご了承下さい.私としては今のところ,特に構造設計に問題があったとは思っていません.

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このドームの屋根はケーブルや膜を使ったいわゆる“軽量構造”です.長径250m,短径130mの楕円ドームを,直径35cmの鋼管のシングルレイヤーで実現したという,非常に高度な技術で設計施工された構造物です.構造技術者の賞「JSCA賞」を受賞していて,以下に構造の詳しい説明があります.

第16回JSCA賞 作品賞 彩の国くまがやドーム

www.jsca.or.jp より

事故前の鳥瞰写真を見ると,膜屋根の表面には,長手方向に,山谷のラインが交互に並んでいるのが確認できます.

膜は言ってみれば,ただの布なので,格子にただ貼り付けただけでは,構造体としては成り立ちません.最初の写真を見ると,膜が破れた箇所には,ニョキニョキと屋根面に鉛直なポストが残っているのが分かります.各格子の中央にあるこのポストが,膜を下から押し上げる形で,膜をテントのようにピンと張った状態にして構造体として成立させていました.

このポストで押し上げられた点が連続して,山のラインを形成していました.谷のラインは膜が直接,鋼管に取り付けられていたラインです.

くまがやドーム屋根崩落 20140216

動画を見ると,この山のラインに沿って膜が破れたように見えます.これから推測できるのは,雪の重みで屋根表面が沈んだことにより,ポストが膜をより大きな力で突き上げる形になり,結果として突き破ったのではないか,ということです.点が連続して,線になって,あるいはポストのてっぺんを繋ぐリッジケーブルに沿って,破けたように見えます.

ピンと張ったハンカチの中央を,下からボールペンで突き上げることによってテントを形成していたのだけど,その突き上げる力が大きくなり過ぎて,ボールペンが突き抜けてしまった,というイメージですね.

もう少し規模が大きい膜屋根だと,接触する部分のポストの径を大きくする,あるいは,接触する部分の膜を2重or3重にして頑丈にしたりします.この屋根でも,膜の重ね合わせ部分に接触させていたようなので,強度は多少あったと思いますが,さすがに想定以上の積雪荷重がかかると,どうしようもないですね.

膜を支える構造体はそのまま残っているので,もし何もダメージがなければ,膜をもう一度張るだけなので,割りとすぐ復旧できるんじゃないでしょうか.大規模な屋根なので,センセーショナルな事故に見えますが,実際はそうでもない,という印象です.

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積雪による膜屋根の崩壊というと,バンクーバーのBCプレイス・スタジアムやアメリカのミネソタ州にあったメトロドームを思い出します.これは膜と言っても,くまがやドームとは違って,東京ドームと同じ空気圧で膨らませるタイプのものでしたが,同じく積雪で膜が破れました.度重なる事故や維持費の関係でこの屋根は諦めて,BCプレイスには今は全く違う構造システムの膜屋根がかかっています.

雪の重みでメトロドームの屋根が破れて沈んでいくところ内側で撮影した貴重な動画
Raw Video: Snow Causes Metrodome Roof Collapse

膜が破れても,(勿論雪が落ちてはきますが)コンクリートや石膏ボードが落ちてくるわけではない,というのは膜構造の大きなメリットです.あと膜は,寿命のために,張替えを前提に設計されている場合が多いので,不測の事態の時の張替えもそこまで難しくはないのではないでしょうか.

いずれにせよ,詳しい調査結果が待たれるところです.

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(追記)

(膜の初期張力値をコントロールして)屋根の全体座屈よりも先に,膜が破れるように設計していたのでは,という興味深いご意見があったので,防備メモ.

(追記 2014/4/6)

熊谷スポーツ文化公園の公式発表にすると,平成26年度の施設利用は休止となったようです.

「2月14日からの記録的な大雪の影響により大きな被害が発生した、彩の国くまがやドームについてですが、施設の損傷状況の度合いが大きく、復旧まで長期間かかる見通しです。つきましては、平成26年度の「くまがやドーム」の施設利用は1年間休止させていただきます。」(熊谷スポーツ文化公園HP)
http://www.parks.or.jp/kumagaya/topics/?id=264


 (追記 2015/2/10)
熊谷スポーツ文化公園の公式発表にすると,2016年4月の施設利用再開予定のようです.

「2014.11.15 【お知らせ】くまがやドーム復旧工事について
くまがやドームは平成26年11月17日(月)から復旧工事を開始いたします。ご利用の皆様方には大変御不便をおかけしております。今後、本格的な復旧工事を開始し、多目的運動場の利用再開は平成28年4月を目指しております。なお、ドーム内の体育館は平成27年4月に利用再開ができるよう努めてまいります。」(熊谷スポーツ文化公園HP)
http://www.parks.or.jp/kumagaya/topics/?id=264


(追記)

動画はBCプレイスではなくメトロドームのものでは,とのご指摘を頂き訂正しました.



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