テンション構造はアートになり得るか 「Tube Innsbruck by NUMEN / FOR USE」




週末にオーストリアのインスブルックまで足を伸ばしました.目的は,ここ数年注目しているデザイナーのインスタレーションを見ること.

NUMEN / FOR USE (ヌーメン/フォーユース)は,オーストリアとクロアチアを拠点とした,舞台美術や空間デザインからパブリックアートまで幅広く手がけてるインダストリアル・デザインのグループです.ちなみにFOR USE」は主に機能的な家具等のデザインをするときに使用し、その枠を超え、より自由なクリエイションを制作するときは”本質・実質”の意味を込め「NUMEN」として活動をしている“[2]そうです.


彼らのインスタレーションの多くは,観覧者もその中に入って楽しむことができます.そして,いわゆる「テンション構造」になっているものが多いために,否が応でも注目せずにはいられませんでした.ベルリン在住時の2010年にあった,テンペルホーフ空港でのインスタレーションを見逃してしまった時から,いつかは彼らの作品を体験したいと願っていまして,ようやく夢が叶いました.


aut. architektur undtirol(チロルの建築フォーラム)での展覧会のために制作されたこの,「Tube Innsbruck」は,上下左右に連続する展示空間に3次元に張り巡らされたインスタレーションです.セーフティネットで閉じられた「チューブ」の中を,観覧者は自由に歩けます.
このインスタレーションの縮小模型
構造的には,上下左右と多くの支持点を持たせることにより,基本的には引張力だけで成り立たせています.そのため,当然構造的には「柔らかくて」,チューブの中を歩くのは,例えて言えばトランポリンの上を歩くような感じです.

チューブの中
そして,引張だけで成立しているので透過性が断然高い.空中に浮いたスケスケのチューブの中を歩くことになるため,最初は若干の不安を覚えましたが,実際に歩いてみたらすぐに慣れました.子どもたちにとっては極上の遊具のようで,不安などどこ吹く風,この不思議な空間を縦横無尽に転げまわりながら,楽しんでしまいました.


上述のベルリンのインスタレーションもそうですが,テンションだけで成立させているものは,有機的な表情を帯びていますね.

恒久的な展示物ではないので,少ない材料で効率的に空間を作り出しているのは理にかなっていますし,また,体験型のインスタレーションなので,テンション構造の柔らかさによる歩きにくさが体験をより特別なものにしているというのもお見事

実にシンプルなアンカー 

デザイナーにエンジニアリング・デザイン的な意図は全くないでしょうけども,個人的見解としては,構造エンジニアリングとアートの交差点に位置する,実に質の高いインスタレーションだと思います.



会場にあった彼らの別の作品 赤いボタンを押すと空気が吹きこまれて立方体となり,その中にはテンション材による立体的なの格子が現れる
 
[参考]
[1]
[2]

author visited: 2015-10

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