ドクター・シュッツ・インジェニアの橋 ホーフェ橋

私が所属している設計事務所ドクター・シュッツ・インジェニア(Dr. Schütz Ingenieure)が設計した橋をいくつか紹介してみたいと思います.


山奥の村グンツェスリート(Gunzesried)にかかるホーフェ橋(Hohe Brücke)は,コンクリート床版を鋼製π型ラーメンで支えた複合構造の道路橋である.


もともとここには,1901年に建設されたコンクリートのアーチ橋が架かっており,ドイツでは最も古いRC橋の一つであった.当時では革新的であったRC橋を提案したのは,建設会社であるヴァイス&フライターク社(Wayss & Freytag1875年創立)であった.

旧橋の側面図 http://www.ibdrs.de/data/pdfs/2125/Hohe-Bruecke-Presse.pdf より
モニエのドイツ内での特許権を買収(1867年)したグスタフ・アドルフ・ヴァイス(Gustav Adolf Wayss,1851-1917)らは,研究を重ね鉄筋コンクリートの構造計算を確立した.研究結果は1887年に「モニエ・システム(Das System Monier (Eisengerippe mit Zementumhüllung))」という本にまとめられている.本橋は,このモニエシステムの適用例の一つである.

当時の様子を知ることができる面白いエピソードがある.


この橋を必要としているのは主にこの村人だけだったが,高さ25mの深い渓谷で約40mのスパンの橋を架けるのは,経済的に厳しかった.そこでヴァイス&フライターク社は,コンクリート材料と足場に使う木材のみならず,労働力をもグンツェスリート村が提供するという計画を立てたのである.さらには設計を進めてみると,片岸での測量に誤りがあり,スパンを2m延長しなくてはいけないことが判明した.シンメトリーなアーチ橋の形状は保ったままで,スケールを大きくすると総工費は2000マルクにまで増える.そこでヴァイス&フライターク社は,非対称な形状の橋を提案し,総工費を1200マルクまで抑えることができたのである.


面白いのは,こういった発注者と設計者の間のやり取りが書簡で,非常に親密かつ友好的に,そして冷静に行われたことである.「こういったその土地の文化に根ざした建設は今日ではほとんど見られない」と新橋を設計したゲルハルト・パール氏(Gerhard Pahl, Dr. Schütz Ingenieure)は述べている.


およそ100歳を超えていた旧橋であるが,1964年に一度6トンの車両交通に耐えられるように,補修と補強を受けている.2009年の調査で,架替が必要であると判明した.


新橋は,こうした歴史的背景を注意深く考慮して設計された.旧橋に敬意を示しつつ,かつ現代的な技術を駆使した複合構造である.伸縮装置を除したインテグラル橋としてメンテナンスに配慮しつつ,材料をミニマムに抑えた非常にスレンダーな橋となっている.施工の際には,旧橋のアーチ部を残してそれを足場として使い,工費の経済性を追求している.





[基本情報]
名称:
Hohe Brücke (Gunzesried)
完成年:
2011
機能、種類:
道路橋
設計:
DR. SCHÜTZ INGENIEURE
施工:
Matthäus Schmid Bauunternehmen
発注:
Gemeinde Blaichach
受賞等:
Ausgewähltes Projekt baupreis allgäu 2013
構造形式:
複合構造のπ型ラーメン
総工費:
2,089 Mio. € (仮橋の解体費用含)
規模:
橋長: 42,00 m
幅員7,50 m
桁下高さ 25m
位置:
Sonthofenから車で15
47.51507, 10.2137
アクセス:
自動車でのみアクセス可

[参考文献]
6.           Architekturforum Allgäu, "P059-P117 Architektur im Allgäu 2006-2015", Kunstverlag Josef Fink, 2017, ISBN 978-3-95976-093-5



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