軽量構造と綱渡り
ここ数年,ドイツでは公園で綱渡りの遊びをしている人を本当によく見かけます.二点間に張り渡した専用ラインの上を歩く一種のスポーツで,スラックライン(slackline)と呼ばれているものらしいです.
上の写真は,家の近所をジョギングしていた時に撮ったものなんですが,写真手前の木から,奥の木まで一本のラインを張っていて,その上を一人の人が歩いています.通常,スパンはせいぜい10mというところですが,これは優に60mは飛んでいてびっくり.全く建築でも橋でもないんですが, まさに軽量構造だなと.
軽量構造の理論を勉強すると,大抵2点間を張り渡したケーブル構造から始まります.このようなケーブル構造は変形が大きいために,その解析には幾何学的非線形性を考慮した理論が必要とされて,それが厄介なんですが,この複雑な挙動がこのスポーツの楽しみに結びついているわけですね.
あまり関係ないですが,拙訳「Footbridges - 構造・デザイン・歴史」 鹿島出版会、2011 ウルズラ・バウズ、マイク・シュライヒ (著) に出てくる一節を思い出しました.
”ケーブル吊構造はさまざまな形態が可能で、かつ美しいデザインの可能性を秘めていることは誰もが認めるところであろう。ケーブルへの信頼性は、サーカスの綱渡りにおける危険性で比喩的に例えられよう。それはつまり、ケーブルが破断する恐れではなくて、ロープの上で演技者がバランスを崩す恐れである。それは大きなリスクである。この文脈において、ヨルク・シュライヒの設計事務所によって設計された、軽量で優雅な曲線を描く一連の歩道橋は傑出したものとして挙げられる。それらは構造物の持つ力強さではなく、場所性から導かれた形態、詩的な情緒を含む輪郭のイメージとして印象付けられる。”
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