"インフラストラクチャーは、文化の中で位置づけられることにより、はじめて技術的にも機能的にも完全なものとなる。(..) 橋梁は文化の一部である。つまり、その機能やコストと同程度に、デザインの質が求められるのである。建築・土木構造物は、デザインだけを切り離して考えることはできないのである!“
(”鉄道橋のデザインガイド: ドイツ鉄道の美の設計哲学 ”より)
鉄道橋ネタが続いたので,実際に建てられた“文化的に優れたデザイン”の鉄道橋を紹介して行きたいと思います.
拙訳のあとがきにも書きましたが,鉄道橋は荷重などの設計条件が厳しいので,造形としての設計の自由度はかなり小さい.つまり,言ってしまえば単に造形力があるだけでは,なかなか優れたデザインの鉄道橋は設計出来ません.別の見方をすれば,だからこそ造形力や技術力を含めたエンジニアの総合的な技量が試されるわけです.
ドイツのネタが続いたので,今回はスペインを.僕が最も好きで,尊敬している橋梁エンジニアの一人である,カルロス・フェルナンデス・カサード事務所(Carlos Fernández Casado S.L.)のハビエル・マンテローラ(Javier Manterola)氏の設計したエブロ川鉄道橋(Osera de Ebro Bridge)です.
背景
ご存知のとおり,世界金融危機の影響からスペインの経済状況は非常に悪いですが,この危機の前はEUからの補助金も有り,スペインの建設産業は非常に元気でした.高速列車鉄道ネットワークを全国に整備するというプロジェクトには2000年から2007年までの間だけで410億ユーロもの公的資金が投入されていました.本橋梁はこのプロジェクトの一部で,サラゴサとバルセロナを結ぶ路線の一部です.
ちなみにこの橋はコンクリート製ですが,2003年にフランスで複合構造の高速鉄道橋が実現されるまでは耐久性や実用性,メンテナンスの実証がなかったために,鋼橋や複合構造橋の設計は認められていなかったそうです.
設計に求められた条件
設計条件として,主に
- エブロ川は流量も多く氾濫すればかなりの勢いの水流になるので,橋脚を河川内に建てることは避けること
- 騒音規制があるために対策すること
- 縦断線形は設計前にすでに決められており,桁下から洪水位までの間に空間的な余裕がない.よって上路形式の橋梁は選定の対象外とすること
これに対して,マンテローラ氏らはコンクリートを主構造材料とした3つの構造形式案を比較検討しています.
- PC桁橋
- PCフィーレンデール橋(採用案)
- 中央3径間を斜張橋とするPC桁橋
防音対策としても,フィーレンデール橋のコンクリート壁面が最も効果が高かった.当初の予定では,開口部を何らかの部材で閉じるつもりでしたが,何もなくても十分効果があることが実証されたので開いたままになりました.
また,コンクリートによるフィーレンデール橋というは,景観面あるいは技術面から見て最も革新性があると判断したようです.
構造
つまり,従来鉄道橋でよく用いられてきた鋼トラス橋の構造システムをコンクリート橋に応用しようという発想です.これは前述したように,当時コンクリート以外は高速列車の鉄道橋の材料として認められていなかったためですが,結果的にはこの条件によって他に類を見ない独創的な鉄道橋が生まれることになりました.
プレストレスを巧みに使うことによってコンクリートによるフィーレンデール橋を実現しています.具体的には,コンクリート壁面に斜め方向にプレストレスを導入することによって直角・水平,両方向のせん断変形に抵抗させています.
ちなみに,ウェブは6m毎に上端をリブで繋いだボックス型です.両岸でウェブを製作し,押出し工法を用いて,スパン中央で接合しました.
デザイン
実際に見た印象ですが,圧巻の一言でした.想像以上のスケール感でしたが,最大で120 mのスパンを飛ばしていることを考えれば納得できます.
橋脚は曲線を用いた,スペイン人特有の有機的で非常に美しい造形.側面の丸い開口部はインパクトがあります.白一色の塗装はスペインの濃い青空に良く映え,ウェブ側面の青色のラインは全体を引き締めています.ディティールに至るまで非常に良くデザインされた橋だと思いました.
鉄道橋としては傑作と言って良いでしょう.私の中では,現代的なものとしては,世界で最も美しい鉄道橋です.
[基本情報]
完成年:
|
2002
|
機能,種類:
|
鉄道橋(高速鉄道)
|
設計:
|
Carlos
Fernández Casado S.L. (J. Manterola Armisen)
|
施工:
|
Vías
y Construcciones S.A.
|
発注:
|
Gestor
de Infraestructuras Ferroviarias
|
構造形式:
|
連続フィーレンデール橋
|
構造使用材料:
|
プレストレスコンクリート・鉄筋コンクリート
|
規模:
|
橋長546 m
支間割42 m+ 60 m + 120 m + 2×60 m + 42 m
幅員16.56 m
|
位置:
|
スペイン,Zaragoza (サラゴサ),Osera de Ebro
緯度 41°31'00"N /経度 0°34'30"W
|
アクセス:
|
付近に公共交通機関はないので車で行くのがオススメ.サラゴサ市内よりA-36号線N-232号線を南東(バルセロナ方面)に向かって約40キロ.
|
[参考文献]
[1]
|
López Ruiz, J. L. Construction
of the bridge over the Ebro River. IABSE Symposium “Structures for
High-Speed Railway Transportation”, Antwerp, Belgium, 2003.
|
[2]
|
Manterola Armisén, J.; Astiz Suárez, M. A.
and Gil Ginés, M.A. Bridge over the Ebro river. Revista de Obras Públicas, 3386:
171-179. 1999. In Spanish.
|
[3]
|
Manterola Armisén, J.; Astiz Suárez, M. A.
and Martínez Cutillas A. Hig Speed Railways Bridges. Revista de Obras Públicas,
3386: 43-77. 1999. In Spanish.
|
[4]
|
Manterola Armisén, J. Philosophy and
structural tecnique. Revista de Obras Públicas, 3388: 172-175. 1999. In
Spanish.
|
[5]
|
Manterola Armisén, J. The Ebro river
bridge, a new concrete bridge for railways. IABSE Symposium “Structures for
High-Speed Railway Transportation”, Antwerp, Belgium, 2003.
|
[6]
|
Manterola Armisén, J. High-Speed
railway bridge over the Ebro River, Spain. Structural Engineering
International 13(3). 2003.
|
[7]
|
Manterola Armisén, J. Railway bridges.
Different types proposals. Revista de Obras Públicas, 3445: 19-27. 2004. In
Spanish.
|
[8]
|
Spanish group of the IABSE (Pulido, M.D. and Sobrino J.A. Ed.). Railways
bridges. Design, construction and maintenance. Madrid, Spain. 2002. In
spanish.
|
[9]
|
author visited: 2006-09