この橋はシュライヒ事務所のマイク・シュライヒ(Mike Schlaich)とアンドレアス・カイル(Andreas Keil)が設計したもので,2010年のドイツの橋梁賞(Deutscher Brückenbaupreis)をもらっています.2010年の10月に、橋梁デザイナーTさんを、翌年6月には橋梁エンジニアKさんをご案内. ザスニッツがあるリューゲン島はドイツ東北端のにある島で,ドイツ人にとっては最も人気のあるリゾート地のひとつです.ベルリンから電車で4時間ほどかかりますが,時間をかけて行くだけの価値は十分にある橋でした。いやー,よかった. シュライヒの橋をご存じの方にはお馴染みのリングガーダー(片面吊りの曲線橋)です.しかし勿論,今までのものをそのままコピーしているわけではなく,今回の橋にも工夫した点が見られます. 最も目に付くのは,ハンガーの定着高さを場所ごとに変えている点.なぜか.これは各断面図を見れば明らかなのですが,各ハンガーケーブルの延長線が重心を通るように設計されています.今までのリングガーダーではハンガーケーブルを直接桁に取り付けて,重心回りのモーメントに対しては,橋軸方向の軸力で抵抗させていたわけですが,この橋ではそのモーメントがまず発生しません.(少なくとも死荷重下では.)勿論直接,重心から吊っているわけではないので,カンチレバーとして働くハンガーフレームが余分に必要になるわけですが. 桁から張り出した薄板は,風により励起される振動対策のために取り付けたもの(2014/03 追記) それにしてもなぜわざわざこんな複雑なことをしたのか.ずっと疑問に思っていたのですが,行ってみてようやく分かりました.この橋とにかくデカイ!幅員は3mと左程大きくはないのですが,スパンが119mと,この種類の橋としては最大規模です.つまり長スパンの大きな荷重に対してはこちらの方が有利という判断だったようです. ちなみに,桁の両端のケーブル定着部で発生する水平反力の処理の仕方が巧み.片側は直接橋台だから簡単に処理できるとしても,反対の海側は,ランプに接続しているのでここでどうするか. ここに急いでいる歩行者のために階段を設置し,この階段の傾斜に合わせた鋼管で約1200kNの水平力を地面に伝えています.一見そうと見えないところが上手い!(ちなみにこの橋脚がコンクリート製なのは、定着点でのケーブルの引張力の向きと、桁の向きが正確には重ならないから。つまりモーメントが生じる。) この橋には,高さの異なる旧市街と港を繋ぐだけではなく,海への展望台,分断されていた東西ドイツの修復,また地域のランドマークなどの役割を果たすことが望まれたとのこと.これだけのものを満たす解決策を見つけ出すのはなかなか難しいと思いますが,非常に上手な解答だと思います. リングガーダーの技術は,シュライヒ事務所がほぼ独自に発展させてきた言わばトレードマークのようなものですが,それを自己主張のために使うのではなく,必要だから使ったという印象を受けます.リゾート地なので,ゆったりと美しい海を眺めながら,緩やかに坂道を降りていけるというのが本当に素晴らしい. 代替案には展望タワーなどの色々なバリエーションがありました.これって考えて見れば珍しい.大抵は,バリエーションといっても,橋というのは決まっていて,その構造形式がテーマになりますが,構造物の種類をスタディするというのはあまり聞かない.良い「橋」を作りたいのではなく,良い「構造物」を造りたい,というスタンス. Foto: Wilfried Dechau,...
Foto: Wiebke Loeper, Berlin www.dbz.deより 2010年8月号の建築雑誌Deutsche Bauzeitschrift (DBZ)は橋特集でした.同僚が手伝ったため,一冊おすそ分けがきたのだけど,非常に面白かった.特集の扉ページが上のヨルク・シュライヒ(Jörg Schlaich)とマイク・シュライヒ(Mike Schlaich)のツーショット.(ちなみに背景はシュライヒ設計のベルリン中央駅の鉄道橋.) ヨルク・シュライヒが教授を退官したのが,2000年.同じ時期に事務所の経営もマイクを含む若きパートナー4人に譲り渡したはず.マイク・シュライヒがベルリン工科大学で教授になったのが2004年. 公式の場で二人だけの写真というのはおそらく初めてで,個人的にはマイク・シュライヒがヨルク・シュライヒと同等のところに立ったという意味で,象徴的な写真のように感じました.事務所経営者や大学教授というポジションの話だけではなく,作品や研究の質といった点で,父親と肩を並べて写真を撮られるだけの存在になったんだなという. エンジニアリングの世界でも,フィロソフィーらしきものが受け継がれるというのは非常に興味深い点.師匠から弟子への技術の伝播というのは,どこにでもある話だと思うのですが,特にシュライヒのそれは他人から見ても分かりやすいものなので,これはそのうちまとめたい. ちなみに,同僚が面倒みた学生のコンペ受賞作品も掲載されました.ドイツには未だに一橋もないエクストラドーズド橋の提案. 写真は全て以下のHPより.http://www.dbz.de/ausgaben/dbz_2010-08_961530.html 雑誌情報Deutsche Bauzeitschrift DBZ...
2010年5月7日から7月4日までベルリンにてシュライヒの展覧会が行われました. 展覧会の名前は「High Energy」.アネッテ・ベーグレ他がキュレーターとなり,ブランデンブルク門の脇にある芸術アカデミー(Akademie der Künste)で開催されました. テーマはシュライヒ事務所の創設者であるヨルク・シュライヒ(Jörg Schlaich) とルドルフ・ベルガーマン(Rudolf Bergermann)の二人の業績を取り上げるというもの. ...
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The Floating Piers, Lake Iseo, Italy, 2014-16, Photo ...
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